マ・ジ・メなポートレイト。
スナップ写真的な手法で人の生き様みたいなものを撮る写真家は多いが、俺は違うタイプだ。異国の地でも、普通に話しかけて『ひと』を撮る。
スナッパーがカメラという武器を振り回して、好き勝手に切り抜いてストックする写真家だとすれば、それは、まるで人の時間を荒らす海賊みたいなもんだ。
そういう意味では、俺は紳士的だろうな。
堂々と撮らせて頂いておりますっみたいな。
つーか、まじめに。
みんないい顔してる。
言葉もまったく通じない、カメラを抱えたジャパニーズ・ゴリラに向かって、
みんないい顔してんじゃん!
でも、なんでだろ?
俺のヘタな英語でさ。
あっちも英語が通じる人間はわずかだろうし。
なんで、警戒しねえんだ?
きっと、俺がまじめだからだなって思う。
子供と動物だけには好かれるし。
外見じゃなくて、誠実さみたいな。
彼らは、この写真を撮られても悪用されないって、感じたんだろうな。
ざんねん!
俺は肖像権の時効を待って投稿しています。
あ、そんなもんねーか(笑)
とにかく、言葉じゃねーんだな。
まじめさ。
マジ目さ。
ようするに、真剣な目だな(笑)
目をみれば、大体わかるもんだよね。
ズルい人って、顔にでてるしね。
言葉が通じねーほうが、かえってわかりやすいかも。
ポートレイトでも、スナップでも、対ヒトであることには変わりはない。
結局は自分がどのように世界と関わりを持つかという事だからね。
ちょうど鏡を覗き込むのと同じようなものなんだろうなー。
あー、やだやだ。
写真家って一体なにものなんでしょうーね。
イスラムや北朝鮮に行って、こんなことできねーし、
結局、この国の人々がいいひとなんだよなー(笑)
レディーボーイ・シティ in patpong
『 今、いくつ? 』俺は遠慮なくきく。
『 二十三です。女性にいきなり年齢を訊くなんてアンフェアね 』男じゃない女。あるいは女じゃない男。
『 ふーん、見えないね。すごく色っぽい 』俺。
彼女は少し笑ったように見えた。ところで、このハーフは日本人である。
彼女は、小さくて丸いガラステーブルに煙草と携帯電話を置くと、急に我に帰ったような目で俺を見る。
『 どうした? 』俺。
女は頭を横に振るとなにごともなかったように脇の椅子に腰をおろし、静かに煙草に手を伸ばした。
店の中は無性に暑かった。
『 オッパイさわります? 』ハーフは突然、口を開いたかと思うと、次の瞬間には煙草に火をつけていた。
『 いいや 。興味ない』俺。
『 え?じゃあ、なんでこの店に入ったの? 』The レディーボーイ。
『 文化の勉強だね 』俺。
バンコクではたくさんの日本人を見かけるが、まさかこのバッポンでメイド・イン・ジャパンにでくわすとは思いもよらなかった。しかも、その完成度は高い。東京でこいつに迫られたらと、想像すると冷や汗をかいてしまう。そのへんの女より、ずっとオンナらしいのである。
その後、ビールを呑みながら、彼女とテキトーに話した。それから、彼女に400バーツを渡して店を出た。
玄関先で、彼女は話しだした。『 男が好きというよりは自分が好きなのよ。女の子のほうが男よりずっと綺麗なんだもの。中学生の頃、ママの下着をつけてたら怒られたけど、女物が好きなだけよ、おかしいかしら 』
『 なるほど。ありがとう 』俺。
他人になること。
もしくは自分以外のなにものかになりすますこと。
本来の自分を消すこと。
そうやって見る風景は普段見る風景とは違うのだろうか。
まるで異国を旅しているかのような感覚を味わうのだろうか。
もしそうだとしたら、たとえばこのニューハーフのように生まれ持った性を変換するということは同時に目の前の景色を変換させるのだろうか。
人格を容易に変えることができるならば彼らは何度も魅惑に満ちた旅に出発できるのだろうか。
俺はそんなことを考えながら、バッポンの雑踏のなかをまた歩きはじめた。
アツいなー。この街は。
Nikon FM2 50mmF1.8 Kodak PORTRA160NC
PENTAX67 TAKUMAR90mmF2.8 Kodak PORTRA160NC
photographer 高野勝洋