日常から離れて
俺は金を稼ぐために写真を続けている。
写真家なんて、作品の大半を被写体に依存しているわけだから、小説家や音楽家と並んで芸術性を語るなんて、どんなに背伸びをしても無理だ。今の時代、写真はアートの世界で生き残れないと思う。
たとえば、コマーシャルの世界で駒にされるのはモデルだけではなくて、フォトグラファーも同じ。そういう意味では、フォトグラファーも広告という毒を呑まなきゃならない。割のいいギャラをもらうと同時に、ある種の病を受け入れなくてはならない。
当たり前のことだが、ビジネスとは過酷なもの。
金を貰うんだから当たり前だ。
デジタルの時代になって、そんな病にも慣れて、完治しようという気もおこらない。
それに堪えられなければ、転職するか、そうでなければ解毒する必要がある。
写真家の、そんな声にならない叫びみたいなものを治癒する優れた特効薬みたいなものが旅だと思う。
日常から離れること。
いつもの自分の位置を動かすことで、見えてくる世界がある。
カメラマンはファインダーというその小さな窓を覗くことで、別の世界を見ることができる。レンズを通してみれば世界と繋がることができる。秩序立てられた社会から離れて、外の世界を素直に受け入れることが、迷子になった子供ようなカメラマンの明るい道標ではないだろうか。
そんな時、カメラの窓は、外の世界へとつなぐ小さな入り口でしかないが。
だけど、その窓は明るい。
結局、写真は個人的な感情でしかない。
日常を『景色』として捉えるか『風景』としてとらえるか、その差は個人の込められた感情の差でしかない。
旅は、俺のような三流カメラマンにとって、唯一の処方箋なんだろう。
Minolta α-9 85mmF1.4 FUJI PRO400
CONTAX RTSⅢ CarlZeissPlanar 50mmF1.4 Kodak TRI-X400